野鳥撮影には焦点距離の長いレンズが必要になりますが、一眼レフのレンズは、「デカい」「重い」こともあり、高倍率ズームコンパクトカメラへ移行する方やサブとして使用する方が増えています。そんな高倍率ズームコンパクトカメラを野鳥撮影に特化して紹介します。
野鳥撮影に向くカメラの選び方
まず最初に、ご自分の撮影スタイルにより「コンパクトタイプ」か大きめなボディを持つ「ネオ一眼」または「レンズ一体型」と呼ばれるモデルを選択する必要があります。
コンパクトタイプとネオ一眼タイプ
それぞれのの違いを簡単に説明すると、普通のコンデジに見えるスタイルを持ったコンパクトタイプと一眼レフのような形をしたネオ一眼タイプに分けることができます。持ち運びを重視するなら「コンパクトタイプ」性能や撮影のしやすさを重視するなら「ネオ一眼タイプ」を選ぶことになります。
カメラのレンズ口径が大きいほど光を取りこむ性能に優れ解像度も向上しますので、同じセンサーサイズで比較すると焦点距離が同じであれば、口径の大きなレンズを搭載しているネオ一眼タイプの方がシャッタースピードを稼ぎやすく解像度も高くなります。またセンサーは大きいほど画質が向上します。
今まで重い機材を使用していた方が、軽くて気軽に使えるとして高倍率ズームに移行している方もおられますし、健康のために毎日散歩する際に、ただ歩くだけではつまらないので散歩中に出会った野鳥を撮影するのに使っているという方もおられます。
また野鳥撮影の場合、機材が大きく三脚に単焦点レンズレンズの組み合わせは、大きく重いので小回りが利きません。特に珍しい野鳥が出ている時などでは三脚を設置した場所から動くことができません。そんな時にサブとして広角から望遠までカバーしてくれる高倍率コンパクトカメラを使い、風景や花を写すといったサブ的な使い方も可能です。
連射速度
「飛びもの」「飛び出し」を撮りたい場合、連射速度が速い方が有利ですが、「枝などに止まっている野鳥をかわいく撮りたい」場合は、それほど連射速度は必要ありません。また調子に乗ってシャッター切りまくると、後で確認するだけでも大変な作業になりますので程々にしておきましょう。
レンズの性能
レンズの口径及びレンズの材質やコーティングの差によって画質に影響が出ます。コンパクトカメラに使われているレンズの種類には通常のレンズ、非球面レンズ、EDレンズ(UD・SDなどを含む)が使われています。レンズの色ずれ(収差)を抑える為に、単純な凸凹なレンズだけではなくレンズの形状を変えたり収差が発生しにくいガラスを使用しているのです。
ファインダーの有無
今時のカメラは高感度耐性も上がっていますし手振れ補正も優秀なので、モニターを見ながらでも十分撮影することはできますが、曇天など光量が不足している時では、しっかりと構えてブレを抑える必要がありますので、ファインダー付きモデルの方が構えやすく有利です。また定年退職後、野鳥撮影に興味を持つ方も多いようですが、ファインダーは視度調整ができますので特に老眼の方にお勧めです。
可動式モニター
無くても特に問題はありませんが、可動式のモニターがあれば野鳥を地面スレスレのローアングルから撮影することができ、いつもと違った印象で写ことができます。
高倍率コンパクト(ファインダー有)
2021年現在、発売されているモデルでファインダーを搭載をしているのは「SONY SyberShot DSC-HX99」「Panasonic LUMIX DC-TZ95」「NIKON COOLPIX A1000」どの機種もセンサーサイスは1/2.3型を採用しており、連写枚数10枚と同じですが、NIKON COOLPIX A1000は、唯一EDレンズを使用しています。また焦点距離も24-840mmとズーム倍率も高く魅力的ですが、イメージセンサーも「原色CMOS」を使用していたり、ISO感度もAUTO時では100~1600しか設定できず少し型遅れの感じがします。しかし小さなセンサーで顕著ですが曇天などの光量の少ない撮影では描写性が落ちやすく、逆に光量がしっかりある時は反射などにより色滲みが出る事があり、それを抑えてくれるEDレンズに魅力を感じるなら「COOLPIX A1000」一択となります。
Nikon デジタルカメラ COOLPIX A1000 SL 光学35倍 ISO6400 アイセンサー付EVF クールピクス シルバー A1000SL
COOLPIX A1000 | SyberShot DSC-HX99 | LUMIX DC-TZ95 | |
有効画素数 | 1604万画素 | 1820万画素 | 2030万画素 |
センサーサイズ | 1/2.3型原色CMOS | 1/2.3型 Exmor R CMOS | 1/2.3型 高感度MOSセンサー |
焦点距離 | 24-840mm相当 | 24-720mm相当 | 24-720mm相当 |
レンズ | 11群13枚(EDレンズ4枚) | 10群11枚(非球面レンズ5枚) | 9群12枚(非球面レンズ10面5枚) |
開放F値 | F3.4-F6.9 | F3.5-F6.4 | F3.3-F6.4 |
ISO感度 | 100~1600(AUTO) | 80~3200(AUTO) | 80~3200(AUTO) |
連写速度 | 10コマ/秒 | 10コマ/秒 | 10コマ/秒 |
モニター | チルト | チルト(上方向180度) | チルト(上方向180度) |
それ以外の2機種の「SyberShot DSC-HX99」と「LUMIX DC-TZ95」は基本性能的には同じようなものなので、好みや付加価値で選ぶとよいでしょう。
ソニー コンパクトデジタルカメラ サイバーショット ブラック102mm×58.1mm×35.5mm Cyber-shot DSC-HX99
パナソニック コンパクトデジタルカメラ ルミックス TZ95 光学30倍 ブラック DC-TZ95-K
高倍率コンパクト(ファインダーなし)
「SONY DSC-WX800」「Canon PowerShoto SX740 HS」共にセンサーサイズ、連射枚数は同じですが、ズーム倍率が前者は「24-720mm相当」に対し後者は「24-960mm相当」と焦点距離が長く、レンズにスーパーUDレンズ1枚とUDレンズを3枚使用しており高画質が期待できますので「Canon PowerShoto SX740 HS」をお勧めします。
Canon コンパクトデジタルカメラ PowerShot SX740 HS ブラック 光学40倍ズーム/4K動画/Wi-Fi対応 PSSX740HSBK
SONY DSC-WX800 | PowerShoto SX740 HS | |
有効画素数 | 約1820万画素 | 2030万画素 |
センサーサイズ | 1/2.3型 Exmor R CMOS センサー | 1/2.3型高感度CMOS(裏面照射型) |
焦点距離 | 24-720mm相当 | 24-960mm相当 |
レンズ | 10群11枚(非球面レンズ5枚) | 11群13枚(両面非球面レンズ2枚、片面非球面レンズ 1枚、Hi-UDレンズ1枚、UDレンズ3枚) |
開放F値 | F3.5-F6.4 | F3.3-F6.4 |
ISO感度 | 80ー3200(AUTO) | 100-3200(AUTO) |
連写速度 | 10コマ/秒 | 10コマ/秒 |
モニター | チルト(上方向180度) | チルト(上方向180度) |
ソニー コンパクトデジタルカメラ サイバーショット ブラック102mm×58.1mm×35.5mm Cyber-shot DSC-WX800
ネオ一眼(ファインダー有)センサーサイズ1/2.3型
Canon コンパクトデジタルカメラ PowerShot SX70 HS 光学65倍ズーム/EVF内蔵/Wi-FI対応 PSSX70HS
有効画素数2030万画素、焦点距離21~1365mm(35mm換算)F値3.5-6.5でレンズには両面非球面レンズ1枚UDレンズ3枚を使用しています。重さ約610g。連写速度はAF追従で最高約5.7コマ/秒、AF固定で最高約10コマ/秒となっています。EDレンズ(UD)を3枚使用していることから描写にも定評があり、軽い機材を求め重量級の機材から移行している方もおられます。また広角側が24mmから始まる機種が多い中で、21mmからとワイドに写すこともできる上に望遠側も強いので散歩のお供や野鳥用として愛用者が多いです。
ソニー デジタルカメラ DSC-HX400V 光学50倍ズーム 2040万画素 ブラックCyber-shot DSC-HX400V C
有効画素数2040万画素、焦点距離24~1200mm(35mm換算)F値2.8-6.3でレンズにはEDレンズ1枚非球面レンズ3枚を使用しています。重さ約660g。焦点距離は少し短めでEDレンズの使用が1枚だけですが広角側がF2.8と明るいので、望遠だけではなく広角側を重視する方には良いかもしれません。
SONY DSC-HX400V | Canon PowerShoto SX70 HS | |
有効画素数 | 約2040万画素 | 2030万画素 |
センサーサイズ | 1/2.3型 “Exmor R” CMOSセンサー | 1/2.3型高感度CMOS(裏面照射型) |
焦点距離 | 24-1200mm相当 | 21-1365mm相当 |
レンズ | 10群15枚(スーパーEDレンズ1枚、 EDレンズ2枚、非球面レンズ3枚)) | 11群15枚 (両面非球面レンズ1枚、UDレンズ3枚) |
開放F値 | F2.8-F6.3 | F3.4-F6.5 |
ISO感度 | 80ー3200(AUTO) | 100-3200(AUTO) |
連写速度 | 10コマ/秒 | 10コマ/秒 |
モニター | 上に約90度、下に約60度 | バリアングル |
この2機種以外にも野鳥撮影向きの以下のような機種がありますので紹介しておきます。
パナソニック デジタルカメラ ルミックス FZ85 ブラック DC-FZ85-K
有効画素数1810万画素、焦点距離20~1200mm(35mm換算)F値2.8-5.9でレンズには非球面9面6枚としていますので両面非球面レンズ4枚と非球面レンズ1枚だと思われますが、EDレンズは使用していないようです。重さ約616g、連射速度10コマ、モニターは固定式。
有効画素数1605万画素、焦点距離24~3000mm(35mm換算)F値2.8-8でレンズにはEDレンズ5枚、スーパーEDレンズ1枚を使用しています。重さ約1415g、連射速度7コマ、バリアングルモニター。3000mm相当という焦点距離をもち、大口径な明るいレンズとスーパーEDレンズが採用し画質にも拘った機種です。しかしセンサーは1/2.3の原色CMOSなので、1インチセンサーを搭載した機種より画質は劣ります。野鳥撮影現場でも見かけますが画質よりもただ野鳥を大きく撮りたい方が好むようです。
Nikon デジタルカメラ COOLPIX P1000 ブラック クールピクス P1000BK
有効画素数1605万画素、焦点距離24-2000mm(35mm換算)F値2.8-6.5でレンズにはEDレンズ5枚、スーパーEDレンズ1枚を使用しています。重さ約1005g、連射速度7コマ、バリアングルモニター。2020年7月の発売のモデルですが2015年3月に発売された旧モデルのP900からセンサーやレンズは変更になっておらず、インターフェイスや画像処理エンジンの変更のみのようで型遅れのイメージが否めませんが、EDレンズがしっかりと使われており画質は期待できますので、焦点距離が欲しい方には良い選択かもしれません。
Nikon デジタルカメラ COOLPIX P950 ブラック クールピクス P950
NIKON COOLPIX P1000 | NIKON COOLPIX P950 | Panasonic DC-FZ85 | |
有効画素数 | 1605万画素 | 1679万画素 | 2030万画素 |
センサーサイズ | 1/2.3型原色CMOS | 1/2.3型原色CMOS | 1/2.3型 高感度MOSセンサー |
焦点距離 | 24-3000mm相当 | 24-2000mm相当 | 20-1200mm相当 |
レンズ | 12群17枚(EDレンズ5枚、 スーパーEDレンズ1枚) | 12群16枚(EDレンズ5枚、 スーパーEDレンズ1枚) | 12群14枚(非球面9面6枚) |
開放F値 | F2.8-F8 | F2.8-F6.5 | F2.8-F5.9 |
ISO感度 | 100~1600(AUTO) | 100~1600(AUTO) | 80~3200(AUTO) |
連写速度 | 約7コマ/秒 | 約7コマ/秒 | 10コマ/秒 |
モニター | バリアングル | バリアングル | チルト(上方向180度) |
ネオ一眼(ファインダーなし)
ファインダーなしのネオ一眼には、Canon PowerShoto SX430 ISやNIKON COOLPIX B600がありますが、メリットは価格が安く購入しやすい事と小型軽量のものに比べるとレンズの口径が大きく画質の点では有利ですが、野鳥撮影は「ブレ」との戦いですから、この形でファインダーが無いのは論外です。
1インチセンサー搭載モデル
2021年現在で1インチセンサーモデルを発売しているのは、SONYとパナソニックですが、野鳥撮影を念頭に考えると焦点距離は600mmは欲しい所です。パナソニックの「LUMIX DMC-FZH1」は焦点距離480mmで少し短いので、必然的にSONY「Cyber-shot DSC-RX10MarkⅣ」「Cyber-shot DSC-RX10MarkⅢ」となります。レンズの性能も良く最新のMarkⅣでは、「ファストインテリジェントAF」による高速AFなピント合わせが可能になっています。
高額なモデルですので、型落ちのモデルを狙うのも良いですし、同じ価格帯のミラーレスを検討してみても良いかもしれません。
ソニー デジタルカメラ Cyber-shot DSC-RX10M4
ソニー デジタルカメラ DSC-RX10M3 F2.4-4.0 24-600mm 2010万画素 ブラック Cyber-shot DSC-RX10M3
最後に
野鳥撮影において焦点距離が長ければ長いほど良いように感じるかもしれませんが、1/2.3型センサーを採用しているコンデジに関しては1200mm前後もあれば十分だと思います。遠くの野鳥を焦点距離を伸ばして大きく撮影したとしても綺麗に写すことはできません。自らが動き被写体との距離を詰めることが重要です。
また1/2.3型ものは、細部の画質は望めませんのである程度の割切が必要となります。高画質を求めるなら1インチセンサーを搭載したモデルを選ぶ必要がありますし、それ以上の画質を望むのであればミラーレスや一眼レフと望遠レンズの組み合わせを使うことになります。また広角側の焦点距離が20mmとか24mmで始まり一見便利そうに感じますが、サブ的に使う以外は野鳥にハマればハマるほど望遠端しか使わなくなる事も念頭に置いて、ご自分に合った一台を見つけてください。
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